血のごとく赤く―幻想童話集

内容(「BOOK」データベースより)
さあ、お聞きなさい、グリマー姉妹のおとぎ話を。美しいけれど邪悪な王女や可憐な姫君をまどわす魔物の王子、闇の公子に恋した乙女や狼に変身する美少女たちがくりひろげる、美しく妖しく残酷な九つの物話を…。ダーク・ファンタジィ界の女王がグリム兄弟ならぬグリマー姉妹の名を借りて、「白雪姫」「シンデレラ」「美女と野獣」「ハーメルンの笛吹き」などおなじみの童話をモチーフに織りあげた、魅惑の幻想童話集。

短編集は苦手で途中で止めてしまうことが多いのに、この「グリマー姉妹のおとぎ話」は飽きずにあっという間に最後まで読めた。グリム童話はみんなが話を知っている分、作者のセンスがたいへん分かりやすい形で表れるらしい。このダークで妖しげな雰囲気は、タニス・リーだけのものだろう。読んでいると、作者がグリム童話をネタにして本気で遊んでいるような感じがする。好きな話は「緑の薔薇」と「黄金の綱」。

■収録作品タイトル(元ネタ)
冒頭部分

◎報われた笛吹き Paid Piper(ハーメルンの笛吹き男)
夏の午後おそく、河はあさくかぼそく、なめらかな石のあいだをぬってながれているのだった。

話はまるっきりファンタジーなのに、貧者と富者の差とか祭りのシーンなどの現実感が、話に妙なリアルさをかもしだしている感じがする。もとの「ハーメルンの笛吹き男」も考えようによってはかなりホラーだが、これは・・・。

◎血のごとく赤く Red As Blood(白雪姫)
美しいお妃は、象牙のとびらをひらいて、魔法の鏡をのぞきこみました。「鏡よ鏡、おまえの目にうつるのは誰?」

逆・白雪姫。7人の小人と王子さまの配役がかなりキてる。極めつけにこの白雪姫の堂々たる魔女ぶり!((( ̄∀ ̄;ぉぃぉぃ

いばらの森 Thorns(眠り姫)
若者が道で黒ずくめの女に出会ったのは、日没のせまる頃だった。

「黒ずくめの女」って、あの呪いをかけた13人目の魔女だったのか・・・。読み直してみて、やっと気がついた!100年前の女性の相手をする王子さまというのはどうなの、というツッコミに対する答えか。

◎時計が時を告げたなら When the Clock Strikes(シンデレラ)
そうなんです。広い舞踏室は今では埃に埋もれてしまってます。白大理石や薔薇色大理石の細い柱も、蜘蛛の巣が包み込んでいます。

おわーっ!悪の大魔女シンデレラ!どうなの、どうなのよこれは!継母も義姉2人も、ガラスの靴も王子さまもスゴイ!ぎゃー!

◎黄金の綱 The Golden Rope(ラプンツェル
白い森のただなかに建つ石造りの家で、その女は、ただひとりが与えてくれるはずの力にこだわっていた。

なんとも意表を突かれるハッピーエンド。この話と最後の「緑の薔薇」だけは、ハッキリとハッピーエンドです。だから気に入ったのかもしれない。オリジナリティに溢れているとはいえ、ストーリー自体は予定調和的な型の中でよくここまで変化させたと思った。

◎姫君の未来 The Princess and Her Future(蛙の王様)
ため池の緑色の水深い闇の底、どんな光も太陽も届かぬところで、ヒラヌは待っていた。

◎狼の森 Wolfland(赤頭巾)
一族の女家長アンナ大奥様から呼び出しがあったが、リーゼルは従いたくなかった。

この赤頭巾(リーゼル)が向かう先は壮大な北国の森林の中にあるお屋敷。狼と赤頭巾とおばあさん、3つの主要キャラクターは確かに出てきたけど、これはまた濃い!ちょっと、ばーさん・・・(^^;ぉぃぉぃ

◎墨のごとく黒く Black As Ink(白鳥の湖
鳩羽鼠色の城館は、濃緑の木立のただなかに憩うていた。

これもやっぱり白と黒、主人公側と敵が混じっていく話。白と黒の対比が印象的だった。特に再会した少女が・・・・。

◎緑の薔薇 Beauty(美女と野獣
彼の151回目の誕生日は、白い帽子をかぶった、大地でもある大洋のはるか上空、セルリアン発のぴかぴかの船上で明けた。夜が訪れる頃には家に、自動装置完備の美しい家に着くだろう。

近未来を舞台にした「美女と野獣」。元々エスタル(ベル役)は異邦人だった、というのはとてもよく分かる。