朱色の研究

"2年前の未解決殺人事件を、再調査してほしい。これが先生のゼミに入った本当の目的です。" 臨床犯罪学者・火村英生が、過去の体験から毒々しいオレンジ色を恐怖する教え子・貴島朱美から突然の依頼を受けたのは、一面を朱で染めた研究室の夕焼け時だった。さっそく火村は友人で推理作家の有栖川有栖とともに当時の関係者から事情を聴取しようとするが、その矢先、火村宛に新たな殺人を示唆する様な電話が入った。2人はその関係者宅に急行すると、そこには予告通り新たなる死体が…?!現代のホームズ&ワトソンが解き明かす本格ミステリの金字塔。

脱帽!おもしろかった!犯人当てもトリックも全く予想外。キャラの口を借りての能書きや講釈が多くて、随所で作者の考えや感じ方が覗くのも「本格もの」らしい感じだ。「朱色」ということで、まず今回のキーキャラ「朱美」の名前目が向く。それから「火村」も。火村とアリス、相変わらずな2人のやりとりなど読んでいるとホッとする場面も沢山あるが、全体的には朱色にトラウマがあったり悪夢を見たりするなど、強くて重い雰囲気の話だった。
何度かある夕焼けに関わる場面は、どれも描写にかなり力が入っていて気に入った。表現が文学的で、読んでいると朱が・・・赤でもオレンジでもない、あの微妙な夕焼けの空の色が思い浮かんできて、恐いくらい。なので、気に入った個所はまず夕陽の描写の個所。冒頭でアリスが自分のマンションから夕陽を見て驚くところと、周参見(すさみ)の海岸の夕陽の場面。それから、周参見を火村とアリスが見て回るところ。「夫婦岬」のあたりは、読んでいて特に楽しかった。完結したミステリー本なので、これ1冊読んでもよいだろうが、火村&アリスコンビをよく知っていれば余計楽しめる本。

没頭していたら、しっかり夜更かししてしまった。朱色に関係するトラウマとか悪夢が鍵になる話なので、全体に重い感じのする「強い」話だった。エネルギーがあるというか。それより、謎とは関係ないし今更ではあるけど、アリスと火村男二人で恋人岬ってどうなの。婦夫波ねぇ、なんとも堂々としたもんだわ〜。この二人ってそれぞれトラウマがあったり、落ち込んだりもするけど、実はわりと強いところが好き。でも二人が出会ってなかったらどうなってたんだろう、とは思う。