東亰異聞 読了

帝都・東亰、その誕生から二十九年。夜が人のものであった時代は終わった。人を突き落とし全身火だるまで姿を消す火炎魔人。夜道で辻斬りの所業をはたらく闇御前。さらには人魂売りやら首遣いだの魑魅魍魎が跋扈する街・東亰。新聞記者の平河は、その奇怪な事件を追ううちに、鷹司公爵家のお家騒動に行き当たる…。人の心に巣くう闇を妖しく濃密に描く伝奇ミステリ。

冒頭の数ページを読んだだけで、話の舞台にずずーっと引き込まれる感じがした。話の舞台は明治後期の東京に酷似した異世界なのだが、時代小説にありがちな硬さが気にならならず読みやすい。『屍鬼』や『十二国記』の時もそうだったように、頭に自然に映像が浮かんでくる感じがする。話の「場」に引き込む力、という小野不由美の語りの特徴をひとつ見つけたと思った。
「伝奇ミステリ」というように、ストーリーは推理ものの体裁を取り、鷹司家のお家騒動と、近頃東亰を騒がせる火炎魔人だの闇御前だのの関係が、新聞記者の平河の目で描かれる。
ホラーとミステリの間に位置するような、どっちつかずでとっ散らかった話だと感じながらも、怪しげなモノたちの跋扈する帝都・東亰に飲まれて行くような雰囲気は読んでいて楽しかった。ミステリで時代小説でホラーな小説。