吸血鬼カーミラ

カーミラは瞳を輝かせながら私を引きよせ、熱い唇を何度も頬にはわせてキスをすると
ほとんどすすり泣くような声でささやくのでした。
「あなたは私のものよ。私のものにしてみせるわ。そしてふたりは永遠にひとつになるの。」

ある夜、ちょっとした事故で私達の城へ立ち寄った少女はカーミラという名で、背が高く目鼻だちの整った、この世のものとは思えない絶世の美女でした。私がその魅力に少しずつ取りつかれてゆくと、不思議なことに、自分の体から力が抜けていくようでした…。彼女は恐ろしい吸血鬼でした。吸血鬼に豹変する令嬢―生贄になる少女たちの甘美な恐怖と、エロティシズムに彩られたゴシック・ホラー。動き出す言葉解き放たれるイメージ。世界の名作が"今"とリミックス。

レ・ファニュのCarmillaの翻訳書は創元推理文庫(短編集)ほかいくつも種類があるが、私が読んだのは大栄出版の清水みち&鈴木万理訳。表紙を始め、中に写真集かと思うほど白黒写真が沢山あるという変わった本で、一見ランダムに配置されたあやしげな映像が雰囲気をもりあげている。翻訳本という以上に、アートな(芸術的な)本。

「吸血鬼カーミラ」は1871、72年に出版されたJoseph Sheridan Le Fanuの短編で、オーストリアの田舎の城に父とふたりで家庭教師や召使いたちに囲まれて暮らす少女ローラのところに、カーミラという同年輩の少女が来てからおかしなことが起きはじめるというストーリー。話自体はなんということも無い。まったく『ガラス仮面』のままなのでカーミラ=亜弓さんビジョンで、ローラとカーミラがレズっぽいよ〜などと思いながらさらりと読み終われる長さだった。

この話は今沢山ある吸血鬼ものの源流に近いところにある本なので、現代ものを読みなれた私には吸血シーンや吸血鬼退治には新鮮味がなかったが、19世紀が舞台なので時代もの的なのはおもしろかった。当時の上流階級の少女の暮らしと吸血鬼という要素が、違和感なくミックスされているのがなかなか新鮮。

ストーリーは『ガラスの仮面』に出てたお芝居のままなので、最初から最後まで「カーミラ=亜弓さん」ビジョンで読んでしまった。