まほろ市の殺人 春―無節操な死人

まほろ市の殺人』シリーズ4作はつまり、田中芳樹の言うところの「ルリタニア・テーマ」の和ものミステリーバージョンだ。ルリタニア・テーマとは、「近代または現代のヨーロッパ大陸の一角に架空の小国を設定し、そこを舞台に大冒険をくりひろげるお話」のことで、アンソニー・ホープの『ゼンダ城の虜』に出てくる架空の王国ルリタニアに基づく造語。
まほろ市の殺人』は、D県の中央に位置する架空の街・真幌市を舞台にした、「幻想都市の四季」という趣向。街の概略地図、街の歴史、産業、経済状態まで一通りの共通設定があって、その「真幌市」で起きた4件の殺人事件を、4人の作家が書いたということらしい。「浦戸颪(うらどおろし)」と呼ばれる春の大風は、冬の蜃気楼と並んで真幌名物の季節の風物詩だそうだ。「春」は、真幌総合大学の男子学生が語り手。

「人を殺したかも知れない・・・・」真幌の春の風物詩「浦戸颪」が吹き荒れた翌朝、美波はカノコから電話を受けた。7階の部屋を覗いていた男をモッブでベランダから突き落としてしまったのだ。ところが地上には何の痕跡もなかった。翌日、警察が鑑識を連れ、どやどやとやって来た。なんと、カノコが突き落とした男は、それ以前に殺され、真幌川に捨てられていたのだ!

<REVIEW>
真幌総合大学に通う学生の「僕」こと湯浅新一を語り手に、恋人の美波の友達カノコが関わった事件を解いていくという筋。短編でも長編でもない長さの「中編」。アッサリしていてミステリとして少しもの足りないが、それでもストーリーにきちんとした起承転結があって、コンパクトにスッキリまとまっていてなかなかよかった。探偵役の「渉くん」の外見とか、淡々と語る様子を色々と想像しながら読むのが楽しかったので私的にはOK。