凍るタナトス 

<内容> 2002年8月刊行
死後、人体を冷凍保存し、未来の進んだ科学技術により甦りを計るクライオニクス(遺体冷凍保存)。日本に初めて設立されたクライオニクス財団の名誉会長、瀬ノ尾是光が変死した。入院していた病院で、胸から上に石膏ギプスを巻きつけられて窒息死したのだ。それをきっかけに、永遠の生を夢見る者たちを襲い始めた氷の殺人劇の裏には、謎の「手配師」の影が・・・。永遠の命を望み、死後己の体を冷凍保存するよう命じた男の運命は?

一連の事件の犯人は誰か、是光の死体の頭部の破壊は誰が何のためにやったのか、是光の長男・光司の死にまつわる謎・・・それらのミステリの解明と、探偵役である氷村徹警部補の家庭の事情が混ざりながら話が進む。映画『セブン』と同種の気色悪さがあるので、好みが別れそう。
私はこういうのは好きじゃない。発想は面白いけれど、最初から最後までクライオニクス(遺体冷凍保存)という技術的側面ばかりが強調されて、実行犯や黒幕や氷村の心情、動機、葛藤などが伝わってこなかったのが残念。科学とか計算とか数字で埋め尽くされた凍るような冷たい雰囲気。氷村の決意も、結末も、なんだかなぁ・・・・問題提起だと言うけど、ミステリーとしては、これはどうなの?せめて、もう少し氷村という人物の心を深く描いてあったら、印象が違ってたかもしれないけど。
ちなみに、タイトルの「タナトス(Thanatos)」という単語は「死」の意味。ギリシャ神話の死を擬人化した神から来ているらしい。