The Witch Trade

翻訳:アビーと光の魔法使い
<内容>
地図にない港町スペラー(Speller)に住む少女、アビゲイル・クローバー(Abigail Clover)、通称アビー(Abby)。叔母夫婦と、海岸に倒れていた所を拾われた少年スパイク(Spike)と4人で暮らしている。両親は航海へ出かけたまま帰ってこない。泳ぐのが大好きなスパイクと一緒に、荒れ模様の海で泳いでいたアビーは、灯台守のおじさんキャプテン・スターライトと知り合い、この世界ではLight WitchとNight Witchが対立を繰り返していて、アビーの両親の行方が分からないのもそれに関係があること、アトランティス大陸は海に沈んだのではないこと、さらにスペラーの町の人々は皆、かつて世界中の「アイス・ダスト」の供給を管理していた「海の魔女」であることを教えられる。

なかなか面白かった。善と悪の魔法使いの戦い、それぞれに力を与えるアイスダスト(善)とブラックダスト(悪)、トロール、Albatross(アホウドリ)を連れたThe Ancient Mariner(古老の舟乗り)、ピーターパン、失われたアトランティスの伝説、『海底2万マイル』のノーチラス号のような高性能な潜水艦、昆虫型飛行艇、ロンドン観光、裏路地、劇場・・・・そんな「ありがちな素材」をミックスして作った何でもありのファンタジー。ベースは現実世界にあって、そこから異世界に行く形。ハリー・ポッターダレン・シャン、レイチェルと滅びの呪文、アルテミス・ファウル等と並べてハードカバーで売り出したら人気が出そうな本。

とにかく軽くて展開が早い。ご都合主義ではあるけど、毒がなくて爽やかな場面が多いので読みやすかった。アホウドリの足につかまって空を飛んだり、船と潜水艦の合戦、氷に閉ざされた世界(表紙中央のイラスト)など・・・印象的なシーンが沢山あるので、読んでいて楽しい。話のノリは『魔術師のおい』に似ているような・・・。文学的名作やロンドンの名所案内など、色々な面白い要素が罠のようにあちこちに散らばっているので、そういうのにどれだけ気がつけるかが感想の分かれ目かもしれない。個人的に受けたのは、魔法使いの図書館で、エルフが気難しい司書のことを「彼はロンドン大火(the Great Fire of London)以来ずっと機嫌が悪いんだ」(p100)という所(ロンドン大火:1666年9月2日)。って、この話の舞台はいつよ? 何百年気難しいままなんだ!?( ̄∀ ̄)ぷっ!

【The Ancient Mariner】
コールリッジ(18世紀ロマン派の詩人)の詩に出てくる舟乗りの名前。本書では、主人公を導く役割をするキャプテン・スターライトという人が、別名The Ancient Marinerと呼ばれているという設定。彼に言わせると、アホウドリと自分は仲のいい友達であって、コールリッジの詩はそれを見た敵(Night Witch)が作った、というか作らせた詩なのだそうだ。
 
【The Rime of the Ancient Mariner(古老の舟乗り/老水夫行)】
航海中に船が嵐に遭い、そこへ霧のなかから神の使いのように一羽のアホウドリがやって来て嵐を払う。船に居ついたアホウドリを、古老の船乗りが弓で射ってしまったことによって呪いがかかり、今度は凪にあって船員は彼を残してほぼ全滅。なんとか命は助かったが、無事に陸へ帰りついた後も、この一連の出来事を他人に語らないと体を激痛が襲うようになった。(『コウルリッジ詩集−対訳(岩波文庫)』 204〜283p)

アビー Abby : アビゲイル・クローバー(Abigail Clover)の通称。主人公の少女。
スパイク Spike : 海辺で拾われた謎の少年。
キャプテン・スターライト Captain Adam Starllight : "Ancient Mariner"とも呼ばれる。
ベンボウ Benbow : キャプテン・スターライトの親友のAlbatross(アホウドリ
チャドウィック卿 Sir Chadwick Clock : 光の魔法使い(Light Witch)の長。ロンドンに劇場を持っている。
ウルフベイン Wolfbane  : アビーたちの敵。闇の魔法使い(Night Witch)。ちなみに"Wolfbane"とは猛毒トリカブトのこと。