陰陽師―飛天ノ巻

童子のあやかしが出没し、悪さを働いているようだな、博雅」「よし。では、ゆくか晴明よ」。われらが都を魔物から守れ。百鬼が群れる平安京の闇の果て、幻術、風水術、占星術を駆使し、難敵に立ち向う希代の陰陽師安倍晴明、笛の名手・源博雅。名コンビの活躍、すがすがしくて、いと、おかし。

うむ、夢枕獏版『日本昔ばなし』、ますます絶好調!!これは作者が色々な古い文献を読んで解釈して、自分なりに作り上げた幻の「京都」なのだな。『今昔物語』『続教訓抄』『古今著聞集』など、本文中にも古典からの引用が出てきたりするのに、文章は読みやすいし、何よりキャラクターが生き生きしているから古い感じが全然しなかった。前の本よりも清明と博雅というキャラクターがさらにしっかり見えて来た感じ。短編集なので気楽に読めて楽しかった。


<収録作品タイトル、冒頭の一文&ひとこと感想>

源博雅が、土御門小路にある安倍清明の屋敷を訪ねたのは、水無月の初めであった。

「天邪鬼」 :「天邪鬼」が出てくるシーンが、映像的にとてもきれいだった!夜にこんな風に呼びかけられたら、こわいとか怪しいというより、まじまじと見つめてしまいそう。話の「締め」が、なんとも昔話らしいというか、陰陽師らしい。
 

博雅が、思案気な顔で、安倍清明の屋敷を訪れたのは、秋の夕刻であった。

「下衆法師」:「黒川主」や「白比丘尼」と同系統の、気色悪い話。こういう話も嫌いじゃないし、読んでるときはこういう方がより面白かったりもするけど、でも気色悪いことに変わりない。自然界には不思議がいっぱいだ!((( ̄∀ ̄;ぎゃー

「いや、清明よ―」そう言う源博雅の口から、白い息がこぼれてくる。

「陀羅尼仙」:そういうのは全て超越してます風の顔をした高名な僧に向かって、平然と「「どなたかに懸想いたしましたか」ってどうなの!?その通りだからすごすぎ!しかも、相手の候補として明智法師のことを想定するあたりもかなりキてないか!?

月が、濃い影を縁に落としている。

「露と答へて」:話の筋はちゃんと別にあるが、この話は博雅という人物を描いた話だと思う。

春の、野であった。霞がかかったように、野も、山も、青く煙っている。

「鬼小町」:「―博雅という呪がなければ、清明という呪などは、この世にないも同然かもしれぬぞ」って、うわー!(≧▽≦) この「鬼小町」には同情できないし、最後のシーンでも「ずっとそうしてなさい」と思ってしまった。だって、これは自業自得じゃないの?

桜が終って、初夏の薫風が吹いている。

「桃園の柱の穴より児の手の人を招くこと」:これも昔の本に書いてあるのかどうかわからないが、妊娠した女性が怪異の原因だったという、発想がおもしろいと思った。それが分かって「なるほど!」とすんなり納得してしまったのは何故?

源博雅という男がいる。平安時代中期の官人で、雅楽家である。

源博雅堀川橋にて妖しの女と出逢うこと」:「黒川主」といい「下衆法師」といい、夢枕獏も本当に「異形のもの」が好きだね。こういうのは昔話でもかなりよく聞くテーマだから、別に作者のせいではないだろうけど。博雅の笛の使われ方が印象的だった。