暗い宿

廃業が決まった取り壊し直前の民宿、南の島のリゾートホテル、冬の旅館、都心の豪華なシティホテル…。様々な〈宿〉で発生する難解な事件に、臨床犯罪学者・火村英生と推理作家・有栖川有栖が挑む、本格ミステリ作品集。

作家アリスと火村の短編を4つ収録した本で、話の中にホテルや旅館などの宿泊施設が出てくるという共通点がある。今まで読んだ短編は京都・大阪周辺が舞台になることが多かったけれど、この本の話はどれも旅先で起きたできごとなので、事件の始まり方がこれまでの形とは違うのが新鮮だった。飛びぬけて強烈な印象を持ったものはないけれど、バリエーションがあってけっこう楽しめた。

いつものように正午前に起き出した私は、目覚めのコーヒーを淹れながら朝刊をテーブルに運んだ。

『暗い宿』:話の舞台は、奈良県のある旅館。旅先でアリスが徐々に体調を崩していくところと、旅館で一夜の宿を懇願する場面が印象的で、読みながら上手いな〜と思った。アリスが突発的な事故になんとか自分で対処したところが、そのせいで・・・。それと最後の数行には笑ったな。こういう事件に関わった直後に。まったく、なんて図太いんだ!

回転扉をくぐったとたん、私の頭の中で懐かしいイーグルスの大ヒット曲が静かに流れ始めた。

『ホテル・ラフレシア』:アリスが仕事の関係で行くことになった沖縄は石垣島のリゾートホテルが舞台。『暗い宿』もそういうところあったけど、この話は特に、著者のネタ帳を覗き見している気分だった。こんなのを短編で書いてしまっていいの!?そんなおいしいこと、会話の中にアッサリ流してしまっていいわけ!?と読みながら思った。うむ、やっぱり短編はズバッとした「切れ味」がおもしろい。

その客が中濃屋旅館に姿を現わしたのは三月二日の夕刻、六時を少し過ぎた頃だった。

『異形の客』:うーん、変な話〜〜っ!!なんだこれはー!色々と変だけど、「異形の客」その人が一番変だ!動機も変わってるし、現実離れした計画が実行されてしまったのがすごい。火村がカラオケには「独りで歌いに行く」と言ったのを聞いてアリスがショックを受けるところで吹いてしまった。「彼がカラオケに合わせて独りきりで、『天国への階段』を歌っている場面を思い浮かべて愕然としていると」・・・(≧▽≦)ぷくくくく
この二人、おもしろすぎるぞ。

「視える、って言うんだ」そう言って火村英夫はぐいとビールを呷り、ジョッキを空にした。

『201号室の災厄』:火村、災難に遭うの巻。この火村の一人称は、三人称のように冷静で何でも見通しているような語りだった。人間って非常時にどう対処するかが分かれ目だな、と思った。