絶叫城殺人事件

黒鳥亭、それがすべての始まりだった。壷中庵、月宮殿、雪華楼、紅雨荘…。殺人事件の現場はそれぞれ、独特のアウラを放つ館であった。臨床犯罪学者・火村英生と作家・有栖川有栖のふたりが突きとめた、真相とは。そして、大都市を恐怖で覆い尽くした、猟奇的な連続殺人!影なき殺人鬼=ナイト・プローラーは、あの"絶叫城"の住人なのか!?本格推理小説の旗手が、存分に腕を振るった、傑作短編集。

『黒鳥亭殺人事件』:影絵になった烏が数羽。ねぐらへ帰っていくところだろう。

うーん、鳴かない九官鳥の謎といい、事件の真相といい、なんともブラックな話だ。推理小説二十の扉に似ている、という言葉が印象的だった。言われてみれば、なるほどその通りかも。

『壺中庵殺人事件』:ただごとではない、と狼狽した田島絹子は、迷うことなく隣家に住む壺内宗也の許へと駆けた。

ベタな密室トリックもの。だけど、舞台設定が変すぎて、頭の中で想像するとおかしくてしょうがない。アリスが宗也を「漠然とスーパーモデルに憧れる女子高生のよう」と評する所のさりげないキツさがナイス!鋭くて、宗也がどういう人かよく分かる表現だ。

『月宮殿殺人事件』:車は、とある県境を越えた。友人のおんぼろベンツには厳しい箇所もあったが、どうにか乗り切れた。

月宮殿という「かなり奇抜な建築物」(アリス談)を舞台に起きた、ある悲劇の物語。月宮殿そのものが、特異で変で素晴らしいと思った。アーティストなアリスの一面が見られて楽しかった。
冒頭の会話。
「この辺の川原におもしろいもんがあるはずなんや」
「面白いといっても、色々ある。どんなもののことを言ってるんだ?お前のことだから、どうせ文法がユニークに乱れた標語の看板とか、異常に野暮ったい名前の店とかだろう」
「この前あったラット食堂ってのは常軌を逸してたな 〜〜」

『雪華楼殺人事件』:白衣の医師が問いかける。「今朝の気分はどう?」

雪華楼と呼ばれる廃屋で若い男が死んだ。彼は恋人の女性と一緒に居たらしいのだが・・・
こういう話はミステリとしては反則なのかもしれないし、結末も悲しいけど、私は小説として面白い話だと思った。舞台設定がファンタジックなのも、被害者と容疑者たちの会話も、情景が浮かんでくるみたいで良かったし。でもアリス〜、ブーメランはないでしょう・・・貴方の頭の中は一体どうなってるんだか・・・

『紅雨荘殺人事件』:真っ赤に色づいた枯葉が、11月の風に舞っていた。

冒頭は映画の場面の描写から始まる。「紅雨荘の主人」、大手化粧品メーカーの元女社長が殺された。
この本では、この話が一番気に入った。 短いながら、アリバイトリックや殺人の方法などに気を配っているところがミステリとしてよく出来ている。短編なのが勿体無い!加えて、火村とアリスの交流が多いので、読んでいて楽しい話だった。目で会話したり、問題の映画を見てアリスが泣いたことが発覚したり。

『絶叫城殺人事件』:毎日毎食、ホテルのレストランの食事では飽き飽きするので、JR御茶ノ水駅近くまででて焼肉を食べ、部屋に戻った。

大阪を舞台に起きた連続通り魔殺人の殺人鬼=ナイト・プローラーを火村が追う。
読み応えのある短編だった。舞台になる「館」が現実のものではないのが、他の話と違っている。ずっと犯人の人物像を推理しているようで、わりと硬派な印象。バーチャルな世界と現実世界がシンクロした結末が、よく出来てて悲しかった。