Five Quarters of the Orange

 翻訳:1/4のオレンジ5切れ
故郷に帰ったフランボワーズが、死んだ母のレシピを元に開いた小さなクレープ屋は、順調に人気をのばしていた。彼女には過去に重大な秘密があり、自分がこの村出身である事をかたくなに隠してきたが、暴利をむさぼろうとする甥によってその過去が暴かれようとする。フランス、ロワール地方を舞台に、ドイツの占領下にあったフランボワーズの少女時代の回想と、現代が交錯する。死んだ母は農場で果物を栽培していたが、オレンジだけは大嫌いで絶対に持ち込もうとしなかった。母の謎めいた行動の意味と、フランボワーズの過去が明らかになっていく・・・。

全5部構成の奇数部が主に現在、偶数部が過去の出来事を語り、話が同時に進んでいく。途中から回想シーンなどを挟んで話が混ざり始めて、過去の出来事が全て明らかになると、現在のフランボワーズがそれを乗り越えることで話が決着するという流れ。
1 The Inheritance(遺産)
2 Forbidden Fruit(禁断の果実)
3 The Snack Wagon(スナック・ワゴン)
4 La Mauvaise Reputation(悪評)
5 Harvest(収穫)

「リッチでダークな」という表現がぴったりの味わいがとても気に入った!過去と現在の話で、母と娘、抵抗と服従、愛と憎しみの話でもある・・・。明るくはないが真っ暗でもない程度に不幸なフランボワーズの家族の確執、その象徴がオレンジというわけだ。周りにあふれる自然の豊かさや川の恵みと、村にやってくるナチスドイツの兵士たちとの取引きが同じ場面の中に同時に描かれている。内容的には結構重いところもあるけれど、穏やかな語り口で滑らかなので読んでいて痛くなかった。どんな過去でも、何十年も経ってみれば懐かしい・・・そんな達観もあるのかもしれない。

この本はとても気に入ったのだけど、どこがどう好かったのか表現しにくいのが困る。雰囲気とか空気だとか・・・この作家独特の感慨のある、ある意味感動的なエンディングだとか、そういうものが印象に残った。こういう感じの本は好き嫌いがあると思うので軽く人に薦めることはできないけど、とても好きな本になった。世界に耽溺した。「おもしろかった」ではなくて、「好かった(ヨカッタ)」のです。

■登場人物名(現在)カッコ内は名前の意味。
Framboise ;(ラズベリー)主人公 65才位
Cassis ;(ブラックカラント。黒すぐり)兄
Yannick ; Cassisの息子。甥

Pistache ;(ピスタチオ)娘
Prune ;(プルーン)孫娘、Pistacheの娘
Ricot ;(Apricot?)孫娘、Pistacheの娘

■登場人物(過去)
Framboise ;主人公 9歳
Cassis ;兄 10代
Reine-Claude ;(Reinette)姉
Mother ; (Mirabelle Dartigen)母
Paul ;近所の遊び友達。