Mixed Magics

翻訳:魔法がいっぱい―大魔法使いクレストマンシー外伝
ダイアナ・ウィン・ジョーンズの『大魔法使いクレストマンシー』シリーズの外伝で、短編4作を収録している。
どれもクレストマンシーが関係する事件を描いたもので、長編に出てきたキャラクターがチラチラと出てきて、その後の様子が窺えるのが楽しい。正直言って、短編として切り離して考えると、インパクトが弱くて切れ味も悪いしオチもいまいちの話が多い。でもまぁこういう本は、シリーズものの面白さで楽しんで読むのがよいのだろう。

■タイトル / 冒頭の一文 / 冒頭1ページ分の紹介 / 感想 を列記。
<Warlock at the Wheel>
 The Willing Warlock was a born loser.
Willing Warlockはクレストマンシーに魔法を取り上げられて食うに困ってから、ずっと車を盗んで売り払うのを仕事にしていた。ある日、警官に追いかけられて焦ったWarlockは、魔女集会通り(Coven Street)に住む知り合いの魔女の家にかけ込んだ。

UK版のその章の最初のページの挿絵がナイスで、じっと見た一瞬後に吹いてしまった。短編だから話の展開が急ぎ足で、長さも日本語で読んだら10分で読み終わるくらい短い「小話」なのに、ちゃんとDWJらしいのが良い。Jemimaいいよ〜!こういう無敵な子って大好き!!本当、DWJの描く女の子は、小さくても大きくても大人でもさすが!きっと、こういう小さな事件が日々あちこちで起こってるんだろうな、と読みながら思った。


<Stealer of Souls>
 Cat Chant was not altogether happy, either with himself or with other people.
エリック・チャント(キャット)と、トニーノ・モンターナの冒険の話。
キャットは不愉快な気分だった。それというのも、クレストマンシーがイタリアへ旅行に行った時に連れて帰ったイタリア人の少年のせいだ。彼はトニーノ・モンターナだと紹介されたその時から、キャットはそいつがイタリアに帰る日が待ち遠しくてしかたがなかったのだから。

なかなかドラマチックな始まりです。キャットはトニーノよりも年上なので、危機的状況にあって「僕がしっかりしないと!」「トニーノを守らないと!」と思うんだけれど、あまり上手くいってないのがまたなんともいい感じ。( ̄m ̄)ぶくくっ 
タイトルが内容にピッタリ。それから、魂が病院の産婦人科にいる赤ちゃんの中に飛び込むというのがすごいと思った。こういうものの日本版の設定だと、ひとつの体の中に別人の魂が入るのはヤバイ、ってことになってると思うのだが。


<Carol Oneir's Hundreth Dream>
 Carol Oneir was the world's youngest best-selling dreamer.
少女キャロルは自分の夢をコントロールすることが出来た。その見た夢を魔法でビンにつめて、他の人も楽しめるようにして売り出したら大人気になったというわけだ。彼女は有名で新聞によく写真が出たし、キャロルのママや出版社もキャロルが自慢だった。ところが、ある日・・・。

クレストマンシーがキャロルに向かって、君の夢はどれもcontemptuousでslushだ、と評する場面がある。小さな女の子に向かって、キッツイ言葉!私はクレストマンシーはそういう人だと思っていたので驚きはしなかったけれど、それにしても遠慮がなさすぎてスゴイ一場面だ。最初の一文は、「作家」って職業の比喩だろうと単純に思った。ベストセラー作品はわりとcontemptuous で slushなものだし。もしやDWJが自分の作品をこう批評されたことがあるのか、それともベストセラー作品に対してDWJが思っていることだったり?と、読みながら思った。


<The Sage of Theare>
 There was a world called Theare in which Heaven was very well organised.
Theareという世界のSageという人物の話。
Theareと呼ばれる世界は天(Heaven)がとてもよく整備されていて、神々が自分の役割をしっかりわきまえているところだった。神々の王Great Zondから、小さな妖精や川に住む目に見えない竜に至るまで、きちんと自分の領域をわきまえている。ここでは宇宙が時計のように動いているのだ。ある時、Zondのところへ太陽神Imperionがやってきて・・・。

今回は神話の世界ということで、Imperionとその関係者を中心に神々の黄昏を描く。当然クレストマンシー登場。宇宙は不思議がいっぱいだ。(^^ゞ 「神様」が人間くさくて、おちょくるような、ちょっと不遜な感じがしておもしろかった。DWJはわりと神話伝説が好きなようだし、これも作者のイメージした世界のひとつだろうと思った。