Guards! Guards!

内容:
「アンク・モルポーク市警察の話」第1話。
ディスクワールド一の大都市アンク・モルポークの警察と、街の闇にうごめく陰謀との対決をユーモアたっぷりに描いたミステリー仕立ての作品。
警察のThe Night Watch(夜間警備隊)に入ったばかりの新人、キャロットは、山奥の鉱山の町でドワーフの両親に育てられ、ずっと自分を「背の高いドワーフ」と定義していたという変わった経歴の持ち主。身長が200センチ近く(6フィート6インチ)にも成長してしまったキャロットに新しい生活と未来を与えるべく、ドワーフの両親は彼を大都市アンク・モルポークへ送りだし、警察へ入れることに決めたのだった。
キャロットの入隊と前後して、アンク・モルポーク市街に突然、ドラゴンが現れて街は大騒ぎになっていた(*表紙)。炎の息を吐くこの巨大な生物が一体どこから現れたのか誰も知らなかったが、何らかの魔法が関係しているに違いないことから、魔法使いの大学、Unseen Universityとの関わりが予想された。しかし・・・。Unseen Universityのオランウータンの図書館司書が、書架から"The Summoning of Dragons"という本が盗まれてなくなっているのを発見して、事態は意外な方向へ。
巨大なドラゴンが火を吹いてアンク・モルポーク市街を襲撃する中、隊長のCaptain Vimesを中心に、キャロット、Nobby、Colonの4人は市民を護り、"法の番人"であるという使命を全うしようと頑張るのだが・・・。

感想:
「ドラゴンを呼んだのは誰か、ドラゴンを退治するにはどうしたらよいか」とテーマに、警察組織のメンバーを主役にした、一応ミステリー仕立ての作品。「ドラゴン」というのがテーマではあるけれど、この話に出てくるドラゴンはあくまで「動物」の1種類。全体的に描き方がとてもマトモで、一般の常識から外れたことが出てこないので、普段ファンタジーを読まない人でも平気だと思う。プラチェットのユーモアが堪能できる。
The Night Watchは本来、警察と軍隊を兼ねたような大きな組織の一部なのだが、本書では組織の他の部分は腐り切っていて、今はかろうじてThe Night Watchだけが動いているという設定。主役は隊長のCaptain Vimesで、彼は初めの方では飲んだくれのアル中の中年男だったのが、ドラゴン騒動の中心に巻き込まれて行くうちに、どんどん「本来の自分」を取り戻して、再生していくのが描かれる。中間部からクライマックス部分ではCaptain Vimesと、その"女友だち"レディ・ラムキンが話のメイン。「岩に鎖で縛り付けられた乙女をドラゴンから救うヒーロー」をあんな風に描いてしまうとは。さすがプラチェット!

おもしろかったです。事件が二転三転どころか、二十転か三十転くらいして、The Night Watchの4人がどんどん予想外の変なことに巻き込まれていく話なので、ストーリーは込み入っていて結構ややこしい。細切れにどんどん場面が変わるので、それについていくのが大変だった。私はそれをたっぷり楽しめたから面白かったのだけど、そういう意味で、読み手を選ぶ作品ではあるかもしれない。ファンタジー好きな人なら、やっぱり最初は【Mort】の方が良いんじゃないかと思う。

キャラクターがすごく良かった。身長2メートルの「ドワーフ」キャロット君。そんなキャロット君の意思と、純粋で生真面目なところを潰さず、生かして育てようととするCaptain Vimesがとてもいい。Captain Vimesは口が悪いし、表面的にはそうは見えないのに、本当は勇気があって優しくて誠実で、酒漬けの生活から立ち直ってみればなんて良い人なんだ! 

Watch, the Ankh-Morpork City アンク・モルポーク市軍・警備隊について≫
▲役職
Commander(隊長?司令官?警察署長?)=1人
Captain(大佐、大尉、支部長、警部)=5人
Sergeant(軍曹、曹長、巡査部長)=10人
Corporal(伍長)=40人
Lance-Corporal(勤務伍長、一等兵
Constable(巡査)
Lance-Constable City Militia(市民軍、民兵)=アンク・モルポーク市民が必要に応じて召集される。
 *役職の日本語訳はよくわからない。たぶん英国の軍隊や警察組織をベースに訳せばいいんだろうと思うが。

▲組織
◇The Night Watch : 夜間の街の警備 門の警備
◇The Day Ward : 昼間の街の警備 門の警備
◇The Palace Guard : 宮殿の警備
◇The Cable Street Particulars : ケーブル・ストリート特別部隊)
  *The Night WatchとThe Day Wardは、夜明けと夕方に交代する
  *Particularsは元はエリート集団で、シークレットサービス(SS)と政府直属の調査機関を兼ねた存在だった。

参考文献:The New Discworld Companion(新版ディスクワールドの手引き)
リンク:The Ankh-Morpork City Watch Pages. Roll Call Index Welcome to the Ankh-Morpork City Watch House

▲The Night Watchについて
"Guards! Guards!"の時点で、キャロットが入隊したThe Night Watchのメンバーは合わせてたったの4人。
1, Samuel Vimes (Captain)
2, Frederick Colon (Sergeant)
3, Nobbs Cecil Wormsborough St. John (Corporal)
4, Carrot Ironfoundersson (Lance-Constable)

たった4人だけどきちんと階級分けがしてあって、"Captain"や"Sergeant Colon"という風に、名字の前につけて呼んでいる。警備隊とか警察というより、これは「軍隊」なんじゃないかな。初めの方でキャロットが「おまえ、何をやったんだ?」 ・・・つまり何か前科があって、その執行猶予でここに入らざるを得なかったんだろう? と聞かれるシーンがある。「志願して入った」と聞いて相手はみんなビックリするのだけど。なんで「警察」が前科者を?と思ったのだけど、軍隊ってことなら話はわかる・・・。